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東京高等裁判所 昭和37年(ラ)561号 決定 1964年6月24日

抗告人 野口敬二郎

主文

本件抗告を却下する。

理由

本件抗告の趣旨及び理由は、別紙のとおりである。

家庭裁判所の審判に対する不服申立は、最高裁判所の定めるところにりよ即時抗告の方法によつてのみなし得る(家事審判法第一四条)のであり、これは非訟事件手続法が広く裁判により権利を害されたとする者に抗告をすることを認めている(同法第二〇条)ことの特例であると解される。そしてどの審判に対し即時抗告を申立てることが許されるかは、家事審判規則及び特別家事審判規則において個々に定めているのであつて、これらの規則において即時抗告ができる旨定めていないものについては不服申立の途はないのである。家事審判規則第一二条による、家庭裁判所の記録の閲覧謄写は、事件の関係人の申立により、裁判所がその申立を相当と認めたときは許可することになつているが、不許可になつた場合においての不服申立方法については何らの規定もない。右審判に対する即時抗告の制限は、記録閲覧申請の不許可処分の抗告にについても同様に解するのを相当とするから、これに対しては不服の申立をすることは許されないと解すべきである。それゆえ、本件申立はその他の点について判断するまでもなく、却下するほかはないので、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 千種達夫 裁判官 渡辺一雄 裁判官 太田夏生)

別紙

抗告の理由

一、抗告人は申立人山田一男、相手方山田良子間の東京家庭裁判所昭和三六年(家イ)第四四八九号夫婦関係調整事件に、右申立人の代理人として関与した弁護士である。

二、右事件は申立人と相手方との間に生じた溝が余りにも深いため、調停委員の熱心な説得も無なしく昭和三七年七月二〇日迄に調整出来ずに不調となり、申立人は離婚訴訟の提起を決意するに至つたのである。

三、右事件の原因となつた申立人の相手方に対する不満の動機が相手方の昭和三四年三月頃の不貞行為と、右行為を理由として申立てた調停事件(東京家庭裁判所昭和三四年(家イ)第三八五九号夫婦関係調整事件)において夫婦関係の調整が出来た後における相手方の生活態度にあつたため、抗告人は離婚訴訟提起の準備として右昭和三四年(家イ)第三八五九号並びに(家イ)第四四八九号の両事件記録を閲覧して申立人の忘却している事実関係を明確にする必要から右両事件記録の閲覧を申請したのである。

四、ところが同裁判所高島家事審判官は右閲覧申請に対して「許可せず」との決定をなしたのである。しかし家事審判規則第一二条が家事事件の記録閲覧に家事審判官の許可を要するものとした趣旨は、家事事件が家庭内の私事に亘ることから特定の利害関係人以外の者に秘密が洩れることを防止することにあるのであるから、抗告人の如く申立人の代理人として調整事件に関与したうえ、弁護士として職務上知り得た秘密を守るべき義務がある者には右規則によつて閲覧を拒絶できないというべきである。

五、そこで、高島家事審判官が抗告人の閲覧申請を拒絶した理由について考えてみると、抗告人と係書記官との間に次の事情が存在したのである。即ち、抗告人が昭和三七年九月二六日午前一〇時三〇分頃記録閲覧申請書を同裁判所記録係に提出したところ、「担当の高島家事審判官が審判事件に出席していて許可が貰えないから」との説明を受けたので抗告人が「午後一時頃なら大丈夫ですか」と聞いたところ、係書記官より昼の休憩時間に許可を貰つておくから、との返事を得たので抗告人は更に「午後一時に来ますから」と念をおしたうえで同裁判所を辞去し、改めて午後一時三〇分頃同記録係に出頭したのである。すると係書記官より「まだ担当家事審判官の許可を得ていないから後日にして貰えないか、と言われたので、抗告人が「午後なら大丈夫だという事であつたから出直して来たのに、随分いいかげんなんですね、何とか便法はないのですか、例えば上席判事に許可して貰うという訳けにはゆかないのですか」と尋ねたところ、係書記官は「いいかげんじやないですよ」と言つていいかげんでないことの弁解につとめたうえで、一〇分待つてくれれば便法を聞いてみるからと答えたので抗告人が一〇分待つたところ、「所長代行は常置委員会に出席しているので会えなかつた」旨を知らせてきた。そこで抗告人は当日の閲覧を諦め一過間以内に再び来る旨を記録係に約束して同裁判所を辞去したという事情である。

六、しかし家事審判規則が、かかる事情の存在を理由に記録閲覧申請の拒絶を許したものでないことは家事審判規則第一二条の趣旨からして明白である。よつて高島家事審判官の「許可せず」とする決定は違法であるから抗告の趣旨記載の決定を求めるため、非訟事件手続法第二〇条により本件抗告に及んだ次第である。

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